TOPPERS Project Newsletter No.2

2002年4月15日発行

TOPPERSプロジェクト
http://www.ertl.jp/TOPPERS/

目次

組込みシステム業界の有力企業4社が参加
JSPカーネルRelease 1.3の配布を開始
トロン協会がIIMPカーネルの開発に成功
128KBに収まる分散オブジェクト環境
TOPPERSプロジェクトメンバに聞く
連絡先

組込みシステム業界の有力企業4社が参加

2002年4月より,TOPPERSプロジェクトに,組込みシステム業界の有力企業4 社が参加することになりました。今回新たにTOPPERSプロジェクトに参加する 企業は次の4社です(あいうえお順)。

TOPPERSプロジェクトのメンバは,豊橋技術科学大学 組込みリアルタイムシ ステム研究室,宮城県産業技術総合センター,苫小牧工業高等専門学校 情報工 学科,(資)もなみソフトウェアに,今回の4社を加え,合計で8組織になりました。 今回の4社の参加をきっかけとして,さらに多くの企業に参加を呼び掛けていき ます。

(株)アドバンスドデータコントロールズは,すでにTOPPERS/JSPカーネルを ベースとしてeFOSiという名称のOSを開発し,同社の販売するGreen Hills Software(GHS)社製の統合開発環境にバンドルして,無償で提供しています。 今後は,JSPカーネルをGHS社製の統合開発環境に対応させるための開発/保守 を担当することになります。

(株)イーエルティは,豊橋技術科学大学 組込みリアルタイムシステム研究 室と共同で,TOPPERS/JSPカーネル上に"Linux on ITRON"の開発を行いま す。"Linux on ITRON"は,LinuxとITRON仕様OSを組み合わせたハイブリッドOS で,日本組込みLinuxコンソーシアム(Emblix)において標準化検討が行われ ているものです。

(株)エーアイコーポレーションは,トロン協会からの委託によって, TOPPERS/JSPカーネルをベースに,メモリ保護機能を持ったリアルタイムOS (IIMPカーネル)を開発するプロジェクトに参加しました。そこで得られた技 術を元に,TOPPERS/JSPカーネルおよびIIMPカーネルに対するサポートビジネ スを開始します。また,同社の持つ各種のソフトウェア部品(ミドルウェア) や開発ツールをTOPPERSカーネル上に統合したトータルシステム「TronForce!」 の提供,およびTOPPERSカーネルを利用したシステムの受託開発サービスを行っ ていく予定です。

(株)ソフィアシステムズは,すでに同社製のICE UniSTACでTOPPERS/JSPカ ーネルをサポートしています。また,TOPPERS/JSPカーネルを用いて,システ ムインテグレーションサービスも行っていく予定です。

関係者からのメッセージ

豊橋技術科学大学 助教授 高田広章
「TOPPERSプロジェクトは,各社の 持つ技術力を結集し,組込みシステム技術の分野における日本の国際競争力を 高めることを大きな目標としています。今回,組込みシステム業界の有力企業 に参加いただけることになったことは,この大きな目標に向けての第一歩であ ると位置付けています。今後とも,プロジェクトの発展,引いては組込みシス テム技術ならびに業界の発展のために,尽力していきたいと考えております。 より多くの方にプロジェクトの趣旨にご賛同いただき,ご協力をいただけると 幸いです。」

(株)ソフィアシステムズ 取締役事業部長 樫平扶氏
「誰でもが簡単に 使える組込みOS "TOPPERS"の普及を目指し,エミュレータ・ベンダーとして, 開発環境整備の一翼を担っていきたいと思います。」

(株)エーアイコーポレーション 代表取締役社長 加藤博之氏
「μITRON はいまや日本におけるリアルタイムマルチタスクOSのデファクトスタンダート になりつつあると言っても過言ではないと思います。その利用分野もFA,計測 器などの産業用機器から,ケータイ電話や情報家電機器まで多岐に渡ります。 このようにある意味で重要なインフラストラクチャとなったμITRONが,オー プンソースのフリーソフトウェアとしての入手できるようになったことは素晴 らしいことだと思います。特に一企業が提供するのではなく,多くの企業,組 織,個人が参加するコミュニティ的なプロジェクトとして,開発や保守が行わ れていく点において,今後TOPPERSはCPU対応や機能拡張などにおいて,最も進 化の速いμITRONになることでしょう。弊社としては,このTOPPERSを安心して 使っていただくためのサポートや保証サービスなどを提供して,TOPPERSの広 がりを支援したく思っております。」

(株)イーエルティ 代表取締役社長 坂本秀人氏
「Linuxというオープン ソースで組込み業界のスタンダードを目指すELTとしては,TOPPERSというオー プンソースをLinuxと連動させることにより,業界,ユーザ,弊社にとっての 大きなメリットが,近い将来発生すると考えます。また,TOPPERSは,既存の 多くのITRONビジネスにとっても,今後のひとつの標準的な実装という意味で, ビジネスの拡大につながると確信しております。」

(株)アドバンスドデータコントロールズ 代表取締役社長 河原隆氏
「日本における組込みシステム市場は非常に多岐に渡っており,組込み用マイ クロプロセッサ,組込みソフトウェア開発環境等を提供するベンダーにとって 世界で最も魅力のあるマーケットです。このマーケットを支え発展させていく ことは我々の使命であり,TOPPERSプロジェクトに参加することは有機的にそ の技術力を向上し,組込みシステム業界の発展に少しでも役に立てることと期 待しております。」

東京大学 教授・トロンプロジェクトリーダ 坂村健氏
「トロンプロジェ クトは,『どこでもコンピュータ』時代のリアルタイムシステムとして20年前 からはじめたプロジェクトで,いまやリアルタイム組込みコンピュータの世界 ではデファクトスタンダードとなっています。そしてプロジェクトの進め方は オープン。これはできるだけ制約をなくし自由にいろいろなことができるとい うことです。このような中でTOPPERSプロジェクトが出てきたことは,TRONの オープンシステムとしての広がりを証明するものとして歓迎すべき事でありま す。」

JSPカーネルRelease 1.3の配布を開始

TOPPERSプロジェクトでは,TOPPERS/JSPカーネルRelease 1.3の配布を,4 月15日付けで開始しました。Release 1.3では新たに,M32R,MicroBlaze, TMS320C54x,i386,H8S(H8S/2350)の5種類のターゲットプロセッサをサポー トしたことに加えて,コンフィギュレータの全面改訂やカーネルの細部の改良 を行いました。また,利用条件の文言に誤解しやすい表現がありましたので, それも改めました。

新たにサポートしたプロセッサの中で,MicroBlazeは,Xilinx社(本社: 米国カリフォルニア州サンノゼ)のFPGA上で動作する32ビットソフトプロセッ サコアで,昨年10月に発表されたものです。Xilinx社はMicroBlaze用のOSを用 意しておらず,TOPPERS/JSPカーネルは,MicroBlazeをサポートする最初のOS となります。

TOPPERS/JSPカーネル(以下,JSPカーネルと略記)は,TOPPERSプロジェク トにおいて開発した,μITRON4.0仕様のスタンダードプロファイル規定に準拠 したリアルタイムカーネルです。Release 1.3では,ターゲットプロセッサと して,M68040,SH3/4,SH1,H8,H8S,ARM7TDMI,V850,M32R,MicroBlaze, TMS320C54x,i386をサポートしています。また,SH2やMIPSなどにもポーティ ングされた実績があります。さらに,Linux上とWindows上で動作するシミュレ ーション環境を用意しています。

JSPカーネルの主な特長は次の通りです。

関係者からのメッセージ

三菱電機セミコンダクタ・アプリケーション・エンジニアリング(株) マイ コンツール部 部長 亀井達也氏
「TOPPERSは,リアルタイムOSを使用する 組込み分野のソフトウェア開発者にとって,(1) 異なるマイクロコンピュータ 間のソースレベルの互換性が向上することにより,開発したアプリケーション ・プログラムの流用性が高まる,(2) その結果,サードパーティによるミドル ウェアや統合開発環境の技術蓄積が促進される,といった効果が期待され, TOPPERS/JSPカーネルがM32Rをサポートしたことを歓迎しています。三菱電機 (株)および三菱電機セミコンダクタ・アプリケーション・エンジニアリング (株)は,インターネット応用向けソリューション環境であるT-Engineと並行し, TOPPERSベースの組込み向けソリューションを強化していきたいと考えていま す。さらに,今回の開発が,豊橋技術科学大学と三菱電機(株),三菱電機セミ コンダクタ・アプリケーション・エンジニアリング(株)の協力により,速やか に行なわれたことを高く評価しています。」

ザイリンクス(株) テクニカルマーケティングマネジャー 澤田修氏
「Time to Marketとシステム設計への柔軟性に対する要求が急激に増加してい ます。ザイリンクスFPGAとMicroBlaze上にITRON仕様に準拠したTOPPERS/JSPカ ーネルを採用することにより,エンベデッドシステム設計をより柔軟に行うこ とができ,さらにより幅広いアプリケーションに対し,少量でもコスト効率の 高いシステム構築ができるようになります。」

トロン協会がIIMPカーネルの開発に成功

Newsletter No.1で紹介した通り,JSPカーネルをベースに,メモリ保護機 能を持ったμITRON仕様OSを開発するプロジェクト(IIMPプロジェクト)が, (社)トロン協会によって進められてきましたが,この度その開発に成功しまし た。開発成果物であるリアルタイムOS(これを,IIMPカーネルと呼びます)は, 6月始めよりインターネットなどを通じて無償で配布される予定です。

この開発プロジェクトは,情報処理振興事業協会(IPA)による「情報技術 開発支援事業」の採択テーマの1つとして推進されていたものです。豊橋技術 科学大学 助教授の高田広章氏を統括リーダとし,技術開発およびソフトウェ ア開発は,トロン協会のメンバ会社4社と豊橋技術科学大学が,トロン協会か らの委託を受けて実施しました。

IIMPカーネルの仕様は,μITRON4.0仕様のスタンダードプロファイル規定 に対して,トロン協会のメモリ保護機能SWGにおいて検討中のμITRON4.0仕様 保護機能拡張(μITRON4.0/PX仕様)に準拠したメモリ領域とカーネルオブジェ クトに対するアクセス保護機能を追加したものです。

具体的には,プロセスに相当する概念として保護ドメインを導入し,それ ぞれのメモリ領域やカーネルオブジェクト(タスクやセマフォなど)毎に,ど の保護ドメインからアクセスできるかを設定することができます。保護ドメイ ンには,複数のタスクを所属させることができます。アドレス変換なしに保護 のみ行うことや,静的に決まる情報を利用した最適化を行うことで,メモリ保 護によるオーバヘッドを削減する点に特長があります。

IIMPカーネルは,ARM940T,SH3,i386の3種類のターゲットプロセッサをサ ポートしています。既存のプロセッサの持つメモリ保護機構(MMUなど)は, 大きく3つに分類することができますが,それぞれの分類から代表的なプロセッ サが選ばれました。また,IIMPカーネルに対応したコンフィギュレータも開発 されました。

IIMPカーネルは,TOPPERSプロジェクトの直接的な成果物ではありませんが, その利用条件は,JSPカーネルの利用条件を踏襲しています。TOPPERSプロジェ クトでは今後,トロン協会に協力して,IIMPカーネルの普及・発展にも尽力し たいと考えています。

128KBに収まる分散オブジェクト環境

TOPPERSプロジェクトのメンバである(資)もなみソフトウェアの代表の邑中 雅樹氏が,TOPPERS/JSPカーネルをベースとして,OSからアプリケーションま で含んだ状態でROM容量が128KBに収まる分散オブジェクト環境を開発されまし た。

この分散オブジェクト環境は,今後広まっていくであろうネットワーク機 能を持った家電製品など,ネットワーク接続が必要な一方で,コストダウンの ために限られたハードウェア資源で動作させたい組込みシステムへの適用を狙っ たものです。

開発された分散オブジェクト環境には,JSPカーネル,ネットワークインタ フェースドライバ,軽量TCP/IPプロトコルスタック(TCP,UDP,ICMP),Java 下位互換仮想マシン,HORB2.1下位互換サーバが含まれています。Java下位互 換仮想マシンは,WavaVMをJSPカーネルで動作するように移植したものです。 これらに,UDPサーバアプリケーション,HORB互換サーバアプリケーション, Javaクラスファイルを含めて,ROM容量128KB以下に収めることが可能です。PC 向けに開発されたPOSIX互換のOSであれば,2MB程度のROMが必要な機能に相当 します。

なお,この開発は情報処理振興事業協会(IPA)による平成13年度未踏ソフ トウェア創造事業の採択テーマとして行われたものです。新規開発部分につい ては,TOPPERS/JSPカーネルと同じ利用条件で,フリーソフトウェアとして公 開される計画です。

また邑中氏は,ITRON仕様OSの弱点と言われている分散環境への取組みを, 今後も続けていかれる計画です。具体的な計画として,独立行政法人 産業技 術総合研究所(産総研)の客員研究員を兼務される予定で,産総研とも連携し てTOPPERSをベースとした組込み分散環境の研究開発を進められることになっ ています。

TOPPERSプロジェクトメンバに聞く

TOPPERSプロジェクトの初期からのメンバーである,宮城県産業経済部 技 術参事 兼 宮城県産業技術総合センターの機械電子情報技術部長 吉田徹氏に プロジェクトでの活動内容などについてお聞きしました。

編集者:最初にセンターについて簡単にお聞かせ下さい。

吉田:当センターは宮城県の公的試験研究機関で,地域産業の振興のため に技術的側面からの支援を大きく研究とサービス業務の両面から行っておりま す。当センターのような機関は各都道府県にあり,それぞれ特徴を持ち公設試 験研究機関(公設試)と呼ばれています。また,当センターは平成11年4月に 工業技術センターから産業技術総合センターとして新築再編されスタートして おります。

編集者:TOPPERSプロジェクトに参加した経緯を教えて下さい。

吉田:当センターの職員が平成11年に豊橋技術科学大学の受託研究員とい う形で半年間,組込みリアルタイムシステム研究室の高田先生のもとでご指導 を受けて参りました。高田先生がTOPPERSプロジェクトを立ち上げる際にそれ がご縁となり,プロジェクトの趣旨が当センターのミッションに非常にマッチ していたこともあり,参加させていただいた次第です。今では組込み技術の普 及活動の一環として力を入れて活動しております。

編集者:JSPカーネルを公開してからどのような反響がありましたか。

吉田:平成14年4月現在で,当センターのウェブサイトから256件のダウン ロードがありました(編集者注:豊橋技術科学大学のウェブサイトからのダウ ンロード数は2,990件)また,JSPカーネルを他のマイコンに移植される方のた めにSH1版の設計メモを公開しており,こちらは178件のダウンロードがありま した。

JSPカーネルを公開してからは,リアルタイムOS関連の質問を受けることも 多くなりました。そこで,企業者の問題解決に寄与するため,所内での相談は もとより企業の開発現場に実際に職員を派遣して技術的な支援を積極的に推進 しております。技術移転が迅速かつ的確に実現しており企業者の満足を得てい るものと自負しております。リアルタイムシステムについてのこのようなニー ズはますます強くなるものと考えております。

編集者:組込み技術に関して,他にはどのような取り込みをされているの ですか。

吉田:4年前から組込み技術者研修を開催しております。実習を中心とした カリキュラムと理解するまでお世話させていただく万全のアフターケアで,受 講生の方にも大変ご好評頂いております。しかし,参加者の理解を最優先する ために機材や人材などリソース面の理由から残念ながら少人数による講座の開 催となるため,年に複数回の開催を求められている状態です。

昨年はリアルタイムOS(μITRON),FPGA(VHDL),Linux(遠隔監視), アナログ回路設計(Spice)の4講座を実施しました。リアルタイムOS講座では 開発公開したSH1版JSPカーネルを教材に用い,受講生が会社に戻った後にも, 開発現場でそのままお使いいただける形で提供しています。

また,啓蒙のためメーリングリスト上でリアルタイムOSオンラインセミナ ーを平成12年度から開催しており,現在約130名が参加しています。

編集者:今後の活動についてお聞かせ下さい。

吉田:ニーズに基づきJSPカーネルの開発,メンテナンスは引き続き行って いきます。しかしながら,このような技術は「出来るだけ早く」「誰でも」 「いつでも」「どこでも」簡単に使えること,またその技術支援が全国最寄り のどこでも受けられる環境の整備を急がなければならないと考えておりま す。

そのため,他の大学,高専,公設試,企業と本当の意味での産学官連携を 推進し,オープンな組込みプラットフォームとして全国展開を急がなければな らないと考えており,豊橋技術科学大学の高田先生を中心に準備中です。

また,今年度から,

  1. μITRON仕様のRTOSやTCP/IP等のミドルウェアを活用した製品への活用方 法研究
  2. 地域での組込みソフトウェアの高度利用事例研究
  3. 最新の組込みソフトウェア開発の動向調査

などを継続的に行うことを目して組込みソフトウェア研究会を結成して活動 を開始する予定でおります。是非ご参加いただきたいと思っております。

このような幅広い分野で必要とされる普遍的なテーマを技術支援していく ことこそ公設試にふさわしいのではないかと考えております。

編集者:どうもありがとうございました。

連絡先

TOPPERSプロジェクトに関するお問い合わせ等は,以下にお願いします。

豊橋技術科学大学 情報工学系
組込みリアルタイムシステム研究室
助教授 高田広章
〒441-8580 豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
TEL: (0532)44-6752 FAX: (0532)44-6781
Email: hiro@ertl.ics.tut.ac.jp

TOPPERSプロジェクトとは?

TOPPERSプロジェクトは,組込みシステム構築の基盤となる各種のソフトウェ アを開発し,良質なフリーソフトウェアとして公開することにより,組込みシ ステム技術ならびに業界の発展に資することを目的としたプロジェクトです。 豊橋技術科学大学 組込みリアルタイムシステム研究室を中心として,プロジェ クトの趣旨に賛同してソフトウェア開発を分担する組織・個人により推進され ています。

TOPPERS/JSPカーネルは,TOPPERSプロジェクトの最初の開発成果です。 1999年に開発に着手し,2000年11月に最初のバージョンの配布を開始しました。 その後数回のバージョンアップを経て,2002年4月時点で,Release 1.3が最新 バージョンとなっています。


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